クロガネ・ジェネシス

第21話 作戦会議
第22話 開戦 VSオルトムス
第23話 血戦 慟哭するネレス
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第三章 戦う者達

第22話
開戦 VSオルトムス



「アーネスカ……大丈夫か?」

 小部屋を出てすぐに、零児はアーネスカにそう問いかけた。

「え?」

「キャッスルプラントに食われたあの馬……お前にとって大切だったんじゃないのか?」

「……うん……まあね」

 余計なことを言ったかな? と零児は思った。

 アーネスカは別に気を使ってほしくてため息をついていたわけではないだろうから。

「けど、大丈夫よ。心配いらないわ」

「そうか……」

 会話を切り黙って歩き始める。

 全員が古城のホールに入る。その瞬間、聞き慣れた……それでいて聞いたことのない口調の声が当たりに響いた。

「させないぞ……!」

『!』

 5人全員その声の主の方へと視線を走らせる。

「ネル……」

 アーネスカがその名を静かに呼ぶ。

 ネレスはキャッスルプラントがいる部屋への通路をさえぎる形で立っている。

「フフフフフ……。キャッスルプラントを燃やすつもりだな……。だが、それは阻止させてもらおう。この体を使ってな……」

 ネレスの体を乗っ取った精神寄生虫《アストラルパラサイド》は、体を捻り、その拳から魔術を放つ。

「ヴォルテックス・マグナム!」

 それは竜巻の弾丸。高速で回転する風の渦を発生させ、零児達へ向けて放たれた。

「交わせ!」

 その途端、進が全員へ回避行動するよう叫ぶ。

 が、零児だけはその攻撃を避けようとはしなかった。その代わりに、右手で盾を作り出し、その攻撃を防ぐ。

 同時に盾を構えたまま走り、ネルに体当たりを敢行する。ネルの全身にその盾が直撃し、すぐさまその盾を消滅させる。続けてネルの右手を掴み、全身のバネを使って投げ飛ばした。

「クッ……!」

 投げ飛ばされたネルは空中で体勢を立て直し、見事に着地する。

「ネルは俺が何とかする。アーネスカ達はキャッスルプラントをどうにかしてくれ!」

「勝算はあるの!?」

「ある! あの巨大植物を倒すなら、人数は多い方がいいだろう!」

 零児はアーネスカに視線を合わせた。その目は「行け」と告げていた。

「零児! あたし達はキャッスルプラントを燃やしに行く! それが終わったら、このホールに戻ってくるわ! だから、ネルとシャロンを助けることができたらこのホールにいること! あたし達も目的を達成したらここに来るわ! だからネルは任せるわよ」

「おう!」

 そのやり取りを見聞きしたディーエ、進、火乃木の3人はアーネスカと共に、キャッスルプラントがいる部屋へと続く扉へ向かう。

「レイちゃん……」

 そんな中火乃木は、1人立ち止まり、零児を見つめた。

「火乃木。行くわよ」

「で、でも……」

「零児は自分の言葉の責任はちゃんと持つ男よ。大丈夫! 死にゃしないって!」

「うん……」

 名残惜しそうに零児を見つめつつ、火乃木もまたその場から立ち去っていった。これでホールにいるのは零児とネレスの2人。

 零児は精神寄生虫《アストラルパラサイド》に乗っ取られたネレスを見つめる。

「お前……俺に勝てるとでも思っているのか?」

 ネレスの口を解して精神寄生虫《アストラルパラサイド》が口を開く。

「言うまでもないとは思うが、この体はお前のお友達の体だ……。この女の体が死んだところで俺は死なない……。分かっているなぁ?」

「とりあえず……黙れ」

 そんなことは言われなくたって分かっている。今更説明されるまでもない。だからこそ、零児はどうするべきか頭を働かせていた。

 ――アーネスカにはああ言ったが……さて、どうやってネルを正気に戻そうか……。

 肉体を乗っ取られた仲間を前に零児はそんなことを思った。



 アーネスカ達4人は全員キャッスルプラントの元へと向かっていた。

 あの怪植物を焼き払い、この古城を燃やす。

 そして、オルトムスという男を捕まえる。

 それが彼らの目的だ。

「どこへ行く?」

 全員、その場で足を止める。

 目の前には身の丈ほどもある巨大な魔術師の杖を携《たずさ》え、紺色のローブを身にまとう男がいた。

「ディーエさん。コイツがオルトムスなの?」

「はい」

 アーネスカの質問にディーエははっきりと答えた。

「見知らぬ人間が増えているな……。わざわざ私の実験に付き合ってくれるために来てくれたのかね?」

 冗談なのか本気なのかよく分からない言い方でオルトムスは語る。

「そんなわけないでしょ! あんたを役人に突き出して、この古城を無きものにするためよ!」

「そんなことをしてどうする?」

「どうするって……」

「お前達にとって何かしらメリットがあるわけでもないのに、なぜ私を止めようとする。断っておくが私は人間と亜人のサンプルが手に入ればそれでいいし、お前達がこの古城から逃げ出したとしてもわざわざそれを追いかけるつもりもない。去るものは追わず、迷い込んだものは捕獲して実験材料にするのみ」

「そんなことはさせないわ! 人間の命は尊くあるべきよ! 人間1人のエゴで命を弄《もてあそ》ぶべきではないわ!」

「三文小説のような下らない正義を振りかざすのはやめたまえ。自分の手に余ることはするべきではないぞ。お前たちが何をしようと、何も変わりはしない。去るならば放っておいてやる。だがこれ以上、私の城を荒らすというのならば……」

 オルトムスは自らの杖を高々と掲げ、地面を突いた。すると杖の先端から4本の奇妙な触手が現れる。その触手は常にうねうねと動いており気味が悪い。

「私がお前達の相手をしよう」

 悠然と、見下すような視線を向けるオルトムス。

 アーネスカはそれに対し、負けじと睨み返した。

「待て……」

 これまで無言だった進が右手でアーネスカを制した。

「進さん」

「こやつの相手は拙者がする。お主達はキャッスルプラントを燃やしてこい」

「じゃあ、終わったら来てよね。あれを燃やすの、骨折れそうだからさ」

「承知した……!」

 そう返事をした直後、進は姿勢を低くし、オルトムスへと特攻する。

「むっ?」

 そして、自らが着ていた着物を脱ぎ捨て、それをオルトムスに向かって投げ飛ばした。オルトムスの視界が一瞬で奪われる。

「今よ!」

 アーネスカ、火乃木、ディーエの3人はそれを合図にオルトムスの横をすり抜け、キャッスルプラントの元へと駆けていった。

「小賢しい!」

 オルトムスがそう言い放ち、魔術を発動させた。

「フレイム・ピラー!」

 オルトムスの周囲から炎が上がり、それが一瞬で広がり、自らの周囲を焼き払う。もちろん、それによってオルトムスに投げつけられた進の着物も燃え上がる。

「ほう……。珍しい格好をしているな……」

 オルトムスは視界が回復すると同時に進の姿に見入った。

 いわゆる忍び装束と呼ばれる、体にぴったりとフィットした黒の装束だ。

「これが拙者の仕事服ゆえ……。いざ、参る!」

「フフフフフ!」

 不気味に笑いながら、オルトムスは構えた。

 オルトムスは左腕を進に向ける。その服の袖の下から、赤黒い触手が伸びてきた。

「ムッ!?」

 進はそれを瞬時に回避する。同時に壁を蹴り、跳躍し、オルトムスに接近する。

「ヌェイ!」

 腰に下げた刀を抜き放ち、オルトムスに切りかかる。

 オルトムスは杖を盾にすることで、その攻撃をしのいだ。

「ハアッ!!」

 その途端、咆哮をあげるオルトムス。左腕を後ろに引き、次の瞬間、信じられない速さの拳が飛んできた。

 回避は間に合わない。進は自らの刀でそれを受け止めた。

 体ごと後退する進。刀の強度が足りなければ折れていたかもしれない。

「アイシクル・ウェーブ!」

 オルトムスが魔術を発動させる。オルトムスの杖の先端から、氷が発生し、それが波の如く床全体に広がり、進目掛けて続いていく。

 進は自らの懐からクナイを1本取り出し、それを床に突き刺す。

「火円結界《かえんけっかい》!」

 クナイを中心に円形の陣が出現する。その陣の内側に進は入り、辺りに炎の結界を作り出す。

 結果、進の周囲のみ凍りつかず、氷の波は進の遥か背後に向かっていった。

「この程度の魔術、拙者には効かぬ!」

「ただのネズミではないか……」

 オルトムスは苦々しく進を睨んだ。

「1つ問うてもよいか?」

 進はクナイを引き抜く。

「なんだ?」

「お主、いかなるために戦う?」

「亜人を滅ぼすためだ」

「……」

「質問はそれだけか?」

「ああ」

 進はそれ以上聞かなかった。聞いても意味がないと思ったからだ。

 そして、跳躍。壁を走り、先ほどと同じようにオルトムスと距離を狭める。走りながらまたクナイを取り出し、オルトムスの足元に突き刺した。

「ムッ!」

「焔爆陣《えんばくじん》!」

 クナイを媒体として魔術が発動する。その途端、オルトムスの周囲が爆煙に包まれた。

「ヌァアアア……!! き、貴様……!」

 オルトムスの足元で発生した爆発は、その全身を包む。

 進は刀を抜き、オルトムスの四肢を潰そうと考える。両手両足を刀で刺せば、自力で動くことはままなるまいと思うからだ。

 そう思い、刀を抜いた次の瞬間だった。

 オルトムスが立っていた地面が崩れた。

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ……!!」

「……!?」

 完全に予想外の事態。古城の老朽化を考えればありえないことではないが、それでもこれは予想できないことだった。

 抜け落ちた床から階下を覗く。しかし、いくら目を凝らしてみても、広がるのは闇だった。

 役人に突き出すということはこれでできなくなった。アーネスカには申し訳ないが、死んだと伝える以外ない。

「しかし……」

 なんとなくではあるが、オルトムスはこの程度で終わるような人間ではない。そんなことを思う。なぜならオルトムスは、人間とは根本的に違う何かを感じたからだ。

 後ろ髪を引かれるものを感じながら、進はアーネスカ達の元へと向かった。

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第22話 開戦 VSオルトムス
第23話 血戦 慟哭するネレス
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